広報はだの7月1日号 2面 「どうやって作ったんだろう と 作品の背景を感じてもらいたい」 一目惚れした伝統技  コン、コン。アパートの一室で、生活音に紛れたかすかな音がする。 「スッと型にはまると、すごく気持ちいいんですよ」  まるでジグソーパズルをしている子供のような台詞だが、遊びではない。全国的に歴史のある伝統工芸「組子細工」だ。専用のかんなで絶妙な角度に薄く削った木を打ち込み、さまざまな模様に組み上げることで、障子や欄間などに芸術性を与える。釘や接着剤は、一切使わない。 「最近は3Dプリンターで簡単に複雑な物が作れるけど、手工品は、出来上がるまでの過程や苦労で、作品の背景が生まれる。そんな良さがあると思うんです」  そう話す佐藤真司さん(49歳)と組子細工の出会いは、8年前に市内で佐藤建具工房を開業する少し前。ベテランの建具職人が若手を指導する講習会に参加し、組子細工を教わった。 「その繊細さに憧れて、始めはいたずら程度に始めてみたんです」  それが今では、自宅に持ち込んで作業をするほどの熱中ぶり。近年は、建具職人がその技術を競い合う全国建具展示会に出品し、3年連続で入賞。昨年は、こだわりの逸品・秦野産杉を使った「地球儀型行燈」が県知事賞を受賞し、「はだのブランド」にも認証された。 「球体にするためには、角度と削り方の微妙に違う2種類のひし形のピースを使って、90面体を組み上げる必要があったんです。1カ月くらい、試行錯誤しましたよ」  球体をつなげるアームの部分も、薄い木材を曲げて重ね合わせるなど、曲線美にこだわり抜いたその形は、全国でも類を見なかった。 「初めは、ただ楽しいだけでやっていたけど、こうして周りの人たちに認められると、励みになりますね」  しかし、それを商売にできるかは別問題だ。大規模なハウスメーカーの台頭で地元の工務店のニーズは減り、さらに洋風建築が主流となっている現在、地域に根付いていた伝統工芸は影を潜めつつある。 「最近は、お客に組子細工の小物も紹介していますが、仕事の中心はこれまでどおり扉や引き戸の受注です。サッカー選手の台詞ではないですが、職人としてもっと「個の力」を高めないと、伝統は守れませんね」  冗談交じりの苦笑いを見せた。 いいモノを後世へ  そんな佐藤さんに昨年10月、転機が訪れた。鶴巻にある老舗旅館・陣屋の宮崎富夫社長(37歳)が、はだのブランドに登録された行燈を一目見て、ロビーや客室用に是非作ってほしいと、注文を即決した。現在は、新たに欄間や襖なども発注している。 「地元の人が、地元の素材を使って、こんなに素晴らしい物を作っている。市外の人や外国人のお客にお伝えできる物語が、そこにはある」  まちにとって、こうしたものづくりは必要だと宮崎社長は続ける。 「今時、こういう物を作る人がいない。買う人がいない。でも、その地の魅力が詰まった「いい物」であることに変わりはない」  ものづくりがまちに息づくことで、地域の大切な伝統文化や技術を守ることにつながる。佐藤さんも、自分の持つ技術を残そうと、最近は建具以外にも目を向け始めている。 「組子細工でスマートフォンのスタンドを作ったら面白いと思う。作り手が時代に合わせれば、技術は生き続けると信じています」  担い手が少ない課題もある中、体験教室などで、近い将来は自分が若手職人や子供に教えられたらと、今後の取り組みを模索中だ。  そんな思いを胸に佐藤さんは今、今年の全国建具展示会の出品に向けて大忙し。今回は秦野産の杉に加え、土中に長い間埋もれて色濃くなった希少な「神代杉」など4種類の木を使った、円柱型の行燈を製作中だ。 「5種類の模様の配置を少しずつずらしながら組み上げ、らせん状に並べたこだわりのデザインです。徹夜覚悟で間に合わせますよ」  「組子細工のまち はだの」。そんな未来を思い描きながら、佐藤さんは今日も芸術的な「ジグソーパズル」を楽しんでいる。 募集 まちの魅力を全国へ発信 第4回はだのブランド認証品  秦野ならではの商品やサービスを、はだのブランド「みっけもん秦野」として認証しています。認証品は、市ホームページで紹介されるほか、はだのブランドのホームページ内のオンラインショップに出品することができます。 対象 「秦野生まれ」、「秦野育ち」、「秦野発」のいずれかに該当し、申請者がその権利を所有する商品やサービスなど 申し込み 申請書(市役所西庁舎1階産業政策課、はだのブランドホームページ(http://www.hadano-brand.jp)にあります)に、申請品の写真などを添えて、7月31日(金)までに〒257—8501産業政策課内はだのブランド推進協議会事務局へ郵送または持参 問い合わせ 産業政策課☎(82)9646 全国建具展示会で入賞した「地球儀型行燈」 コンマ数ミリの誤差が命とりのピース