広報はだの7月1日号 3面 「大切な思い出を もう一度輝かせたい」 世界に一つのテディベア  「おなかの部分は赤を入れたいな」「目元は色がない方がスッキリするね」布の前で楽しそうに話す女性たち。和風小物や置き飾り、ストラップなどの商品を企画・製造している株式会社「にしきや」の作業場での風景だ。  「にしきや」は昭和20年、この地で創業した伝統ある老舗。「アップリケ研究所」として、戦後使われなくなった日本軍の絹製のパラシュートに絵を描き、進駐軍へ売っていた。現在は縁起物や観光土産品が中心。ぬいぐるみやマスコット人形などの顔や手、足などの型を布に当て切り取り、従業員、内職者を含め約70人で縫い合わせや貼り合わせをしている。 「一枚の布から型抜きした幾つものパーツを組み合わせます。立体的になると、本当に感動しますね」  創業者の父の代から家業に携わり約30年という代表取締役の原しのぶさん(63歳)は目を細める。商品の企画も手掛ける原さんにとっては、親心にも似た心情だ。  新商品として企画されるのは年間約50種類。サンプル品を小田原や東京の問屋へ持参したり、京都や大阪の問屋には郵送したりして営業しているが、その中には残念ながら商品化されない物もあるそうだ。  10年ほど前に企画したちりめん布のテディベアもその一つ。試行錯誤してサンプル品を作ったが、価格設定の段階で採算が合わず、商品化できなかったという。 「残されたサンプル品を見るたびに、新しい形でテディベアが作れたらという強い気持ちに駆られました」 と原さん。2年前、一念発起して「テディベアのオーダーメイド」を始めた。子供が小さいころの衣類や学生服など、着る機会はなくなったが思い入れがあり、手放せない物。これを型抜きして縫い合わせた物を依頼主へ届ける。 「お客さん一人一人の気持ちに応えられる、これまでにない一点物を作りたかったんですよね」  念願がかなったと、原さんは満面の笑顔で話す。 思い出が蘇える喜びを共有  これまで受けた注文は、約30体。  一年前に母を亡くしたという50代の女性(東京都)からは、もえぎ色の羽織が送られてきて、自分の子供と姪っ子合わせて5人への形見分けの注文があった。「可愛らしいぬいぐるみに子供たちも大喜び。母がいつも身近に感じられて、私もうれしいです」との声が寄せられたという。 「30年前、娘のお宮参りにと母がくれた産着でした。これを着せて近所の八幡神社へ行きましたね」  懐かしそうに話す諸星小富さん(60歳・戸川)も依頼者の一人。初孫の碧依さん(9歳)のお宮参りにも着せたという、世代を超えた大切な宝物。ずっとタンスにしまったままで、虫食いや変色の心配をしながらも、捨てる気持ちにはなれず、今年3月、テディベア作りを依頼した。 「布に余裕があったので、3体も作っていただきました。これで一安心。大切に飾っているんですよ」  孫からまたその子へと思い出を語り継いでほしいと微笑む諸星さん。碧依さんも 「とってもかわいい。顔のところが一番好き」  そっと頭をなでながら、うれしそうに話す。 「着物や洋服には、必ず何かしらの思いが込められているはず。依頼された方の気持ちに寄り添い、できるだけ希望にかなった物を作りたいですね」  「にしきや」で16年働く三上春江さん(54歳)は、力を込める。布柄の微妙な配列で印象が変わるため、仕上がりが不安なときは、必ず依頼者にイメージの確認をしているという。  3年目に入った「世界にひとつのテディベア」作り。今年1月には、女性が開発に貢献した商品の中でも、人の心を動かす力があると評価され、秦野初の「神奈川なでしこブランド」に認定された。 「うれしいですね。依頼された方からの喜びの声は、私たちにも感動を分けてくれます」  口ぐちにそう話す「にしきや」の皆さん。今後も心通わすものづくりを続けたいと目を輝かせた。 よりよい物を作るため、意見を出し合う 位置が決まったら機械で型抜きする パーツに綿を入れて縫い合わせる 「赤ちゃんのときの着物だよ」と笑顔の碧依さん 輝く女性を応援 神奈川なでしこブランド  県内の企業や団体から、女性が開発に貢献した商品を募集し、審査した上、優れたものを「神奈川なでしこブランド」として認定しています。 神奈川なでしこブランド2015の認定 食料品・飲料  8件 生活・文化用品 5件 サービス    3件 ※27年度も募集予定。詳しい内容は県ホームページ(http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f531754/)を確認してください。 問い合わせ 産業政策課☎(82)9646または県労政福祉課☎045(210)5744