広報はだの9月1日号 7面 No.1154 チカイナカ 近い仲 場所だけじゃなく、心も近づけたい… 受け入れる人、移住してきた人、行政 異なる3者の立場から、 それぞれの本音を語ってもらった。 秦野ならではの「近い田舎」 板橋 日頃感じている秦野の良いところってどんなところですか。 和田 空気が澄んでいて、水もおいしいし、景色もいい。相模湾から房総半島まで一望できる場所もあったりしますからね。 吉田 7年前に田舎暮らしをしようと思って家探しをしていたんですが、「伝統行事がたくさん残っていて、人の結びつきが強いから、吉田さんにとってぴったりの場所だと思うよ」と友人が教えてくれたのが秦野でした。自然ばかりでなく、そういったものも求めていたので。見に来たら一目ぼれでした。 板橋 人のつながりが強いというのは、実感しますね。地域活動など、皆さん本当にいろいろなことを積極的にやっていらっしゃるので。お子さんは秦野に対してどういった反応ですか。 吉田 都会のすぐ近くにある田舎という環境を子供たちも気に入ってくれています。 和田 いわゆる地方都市の田舎とは違うんだよね。 板橋 吉田さんは農業もやっていると聞きました。その中で良かったことはありますか。 吉田 落花生を最初に引っこ抜いたときに「これが落花生か!」と感動しましたね。最初から最後まで自分でやるという喜びは大きいです。 和田 土いじりが好きな人にとっては、たまらないでしょうね。 吉田 秦野は、子育てがしやすい場所だと思うんです。今の若い人は車を持っていますから、近くに店がなくても不便じゃないし、駅も遠くない。近所の人たちの目があるので、子供たちを親だけで育てるというよりは地域で育てるという雰囲気をすごく感じます。 和田 小学生を、下の名前で呼んだりしてね、子供は地域の宝ですよ。 板橋 「上地区いなか暮らしふるさと塾」の参加者からも、自然豊かな環境は素晴らしいという感想が多いですね。子供をそういう環境に触れさせたい親って多いんです。 吉田 上小学校に市街地の子供を受け入れるような仕組みがあると人気が出ると思いますよ。子供にとって、貴重な体験がたくさんできると思うんです。 和田 ただ、本当に人は減ってきているなという実感はありますね。空き家も増えてきたし。 吉田 古民家に住みたい人は結構いると思うので、うまくつながるといいんですけどね。 大切なのは「近い仲」 板橋 市も、県の移住セミナーに参加したんですが、移住を希望する人は、新しい所でどういう受け入れをしてもらえるか、心配される方が多いですね。 和田 前から住んでいる人と移住してきた人とは、なかなか相いれないというのが昔はありました。今は地元住民の意識が変わってきて、そういうことはなくなりましたね。行事も新しい人にも入ってもらうように声をかけたりしています。 吉田 私が引っ越してきたところには新しい家が数軒あるんですけれど、前からいる人たちになんでも教えてもらえる雰囲気だったので、溶け込みやすかったですね。 和田 自治会としても、移住してきた人が入りやすい雰囲気、仕組みづくりをしたいと考えているんですよ。 吉田 すべての人が田舎暮らしに向いているとは思わないんです。地域の行事などに拒絶感を持つ人はいると思うんです。そういうのを楽しめる人じゃないと、しんどいかもしれませんね。自分も引っ越してきた時は、早く地域に溶け込みたくて、多少無理をしてでも行事に出るようにしました。 和田 自治会が率先して声を掛けることも心掛けたいですね。しきたりとかいろいろアドバイスもできるし。多くの人が気持ちよく住んでもらえる自治会づくり、地元の人が気軽に声を掛けられる雰囲気づくりも大切ですね。 吉田 家探しをしているときに職場の先輩に相談をしたら、「最初から良い家なんてなかなか見つからない。まずは小さくてもいいから家を借りてそこに住んで、人脈をつくってから家探しをするといいよ」と教わって、まず家を借りたんです。たまたま家の前の畑も借りられたので、田舎暮らしの入門編としてとてもいい経験ができました。その後、知人の紹介で今の家に巡り合ったんです。 板橋 市では、若年夫婦や子育て世帯向けの賃貸住宅を作って、市内に定住する足掛かりにしてもらおうという施策を進めています。まさに吉田さんが実践してこられたことですね。また、新東名高速道路の開通で人の流れができるチャンスを生かして、知名度を上げることが重要かなと思っています。 和田 ふるさと塾もテレビの取材が来てくれたし、ラジオを聞いて来たという人も何人かいました。メディアを通して目玉になるようなことをすれば、知名度は上がるのかなと思いますね。 吉田 いずれ、「コミュニティカフェ」をやるという夢があるんですよ。住んでみたいと思った人の相談にいつでも乗れる、できれば空き家情報も提供できるような場所を作れないかと考えています。移住者として経験したこと、失敗したことなどいろいろありますから、そういうこともアドバイスできればと思います。 板橋 市内では県人会の活動が盛んなので、移住経験者と移住希望者と交流できるものがあっても面白いかもしれないですね。 吉田 相模原市に「里山長屋」という共同で田舎暮らしをする施設がありますけど、そういう施設があってもいいんじゃないかな。 和田 移住してきた人と地元の人との気持ちが近づくことが大切。地域の行事にまず声を掛けて参加してもらい、お互いを分かり合う。地道な活動だけど、粘り強く続けていれば心の垣根はなくなっていくんじゃないかな。 和田利一さん(71歳・菖蒲) 上地区自治会連合会会長 吉田直哉さん(50歳・八沢) 1・6面で紹介した田舎暮らし家族 板橋倫太郎主査 秦野市役所企画課